イタリアの家具メーカーtecno社創業者の一人である、オズヴァルド・ボルサーニの邸宅。ミラノ郊外にあるこの邸宅はボルサーニ自身が設計したもので、内装はボルサーニがデザインした家具、親交のあった芸術家の作品などが置かれた豪華なものでした。
床は、部屋によって貼り分けられていますが、サロン(応接室)と書斎の床には、ウォルナットとオークを組み合わせた幾何学模様のパーケットフローリングが貼られていました。非常に主張が強いデザインですが、うまくインテリアとバランスが取れているのは流石です。経年による色変化で色気が増した上質な空間でした。
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邸宅内のハイライト、サロンの全景です。このサロンには、戦後の家具や生活用品の大量生産が始まる前に、ボルサーニ氏がデザインした家具や、アーティストのルーチオ・フォンタナが制作したマントルピースなど、数々の貴重なインテリアがありました。そして装飾的なフローリングが、これらの重厚なインテリアを引き立てる役割を果たしていました。
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ミラノ近郊のヴァレードに佇むボルサーニ邸。庭園の緑の中にある合理主義スタイルの建築です。
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玄関ホールから建物の中に入ると、まず最初に目に飛び込んでくるのが、えんじ色とピンクの波型の模様が描かれた大理石の床と、その先にある、L字型が重なるようにして2階に伸びる、オープンタイプの階段です。階段の後ろの窓からは裏庭が見え、透明感のあふれる空間となっていました。
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こちらはボルサーニ邸の1階にある書斎で使用されている装飾フローリングです。このフローリングは、家具やアート作品の魅力を際立たせつつ、床自体も美しさを放っています。また、奥の壁にある扉を開けると、バーセットが現れました。
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2階のスタジオには、オズヴァルドが作った「P126」チェアと「L150」ベッド。床は市松張りのフローリングでした。
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今回、ボルサーニ邸を案内してくれたミラノ工科大学デザイン科の教授、ジャンピエロ・ボゾーニさん。デザイン史の権威として知られます。
「ボルサーニ邸では部屋によって床材を変えてますが、主要な部屋は木質フローリングです。一方、二階のベッドルームと廊下には、足音が響かないようにカーペットが使われています。」
部屋の用途によって床をうまく使い分けていたんですね。
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ボゾーニさん曰く「かつてイタリアの瀟洒な邸宅では大理石が好まれましたが次第に木質フローリングがその役割を担うようになりました。」とのこと。
サロンにメインで使われていたウォルナットとオークを組みあせたフローリングは、床の枡目が視線の流れを生み出すダイナミックな空間でしたが、幾何学模様がほどよく主張しつつ、全体をインテリアのバランスを損なうことのない優れたデザインでした。