挽き板を知らずして床材を選ぶなかれ!
みなさんは、フローリングといえば「無垢」フローリングに限ると思い込んでいませんか?実は挽き板(ひきいた)フローリングという世界で最もメジャーなフローリングが、なぜか日本ではほとんど知られていません。いったい挽き板フローリングとは何なのか? 自宅マンションをリノベーションした体験を綴った著書「徹底的に考えてリノベをしたら、みんなに伝えたくなった50のこと」が反響を呼んでいる人気ブロガーちきりんさんが、わかりやすく解説します!
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日本のブロガー・著述家
ちきりん Chikirin
日本のブロガー・著述家。ブログ「Chikirinの日記」でBLOGOSアワード大賞およびアルファブロガー・アワード受賞。関西出身。バブル期に証券会社に就職。その後、米国での大学院留学、外資系企業勤務を経て2011年から文筆活動に専念。社会派ブログ「Chikirinの日記」は日本有数のアクセスと読者数を誇り、ツイッターのフォロワーは30万人を超える。
[twitter] https://twitter.com/InsideCHIKIRIN
[Chikirinの日記] https://chikirin.hatenablog.com/
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著書
徹底的に考えてリノベをしたら、みんなに伝えたくなった50のこと
自宅マンションをリノベーションした体験を綴り、完全な『顧客目線』で、すべてを解説。「リノベしたい。でもどこから始めればよいのかわからない」という方や、新築か中古+リノベかで迷っている方だけでなく、リノベ専門家にとっても、顧客の気持ちを知ることのできる実用本。
※このコラムは2019年11月23日に開催されたイベント「床材についてトコトン学ぼう! 挽き板(ひきいた)を知らずして床材を選ぶなかれ!」におけるトークセッションを元に構成しています。
イベント参加者の声
イベント「床材についてトコトン学ぼう! 挽き板(ひきいた)を知らずして床材を選ぶなかれ!」にご参加いただいた方の声を集めました。
ちきりんさんのリノベイベントで床材の朝日ウッドテックさんのセミナーへ。ショウルームの広いスペースに敷かれた床材を触りながら歩きながら、体験させてもらいました。特に挽き板と突き板。知らなかったよ!自宅のリノベの時には床もやり直す予定なのでかなり参考になりました。#ひきいた pic.twitter.com/qN6XxjZUbM
— めぐみ (@megkurotsubaki) November 23, 2019
朝日ウッドテックxちきりんさんのセミナーに参加
遮音等級などを知らない私は3年前のリフォームでフローリングに変更したかったが管理組合にしっかり話しもできずカーペットを選択
実際に見て触れる(手&足)のは得られる情報量がとても多く説明も非常にわかりやすい
是非仙台(東北)にも!#ひきいた pic.twitter.com/srAShKSedH— 専業農家 (@sengyo_nouka) November 26, 2019
そもそも無垢か、無垢じゃないのかの2択は誤解!
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こんにちは。ちきりんです。私は床材については全くの素人でした。本にも書いたように自宅マンションをフルリノベーションしたのですが床と言えば、「無垢」か「無垢じゃないか」だけが大事で、無垢といえば本物の木、価格は高いだろうな、お手入れも大変だろうなと思っていました。でもこの2択というのが、そもそも違うというのがリノベをしてみて床についてわかった一番大きな学びでした。
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ちきりんさん、よろしくお願いします!
そもそも2択じゃない?!となると他にも選択肢があるんでしょうか?
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正確に言うと木質床材は4つに分かれています。無垢フローリング、挽き板フローリング、突き板フローリング、そしてシートフローリングという4種類で、それを大きく分類するとすれば足裏が触る部分が木かそうじゃないかになります。
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なるほど、なるほど。それぞれはどう違うんでしょうか?
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無垢フローリングというのは単層なんですね。木が1枚。挽き板フローリング、突き板フローリングは複層。木が重なっているんです。違いは表面に貼っている化粧材にあって、2mm〜4mmの挽き板を貼っているのが挽き板フローリング。0.3 mm〜1mmの突き板を貼っているのが突き板フローリング。木の模様を印刷したプリントシートを貼ってあるものがシートフローリングです。今日は無垢か、そうじゃないのか、という世界観から脱して考えていきましょう。
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はい!脱2択!!挽き板、突き板についてもう少し詳しく知りたいです。
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それは私がお答えします!フローリング総研の所長です。
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よろしくお願いします!
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挽き板とは、天然木をのこぎりで2㎜程度の厚みに挽いたもの、また、突き板とは、木材を0.3~1㎜程度の厚さにナイフで突いた(=スライスした)ものを言います。挽き板は、表面材に厚みがあるため、無垢材と同じ質感です。
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挽き板フローリングは研究開発がつまった優れものだった
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ところで、じつは日本の床材の半分以上はシートフローリングなんですね。新築マンションもほぼシートフローリングが使われています。この前、中古の億ションを見に行ったんですが、2000万円でフルリノベされていて、かなりの予算をかけている方がオーナーでした。キッチンも最新鋭で素敵。でも床はシートなんです。
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え?てっきり無垢フローリングかと。
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なぜ、こんなことがおこるのかというと、施主がお金をだして「私は天然木の床材を使いたい」と言わなければ使われることがないからです。でも、みなさん「床を挽き板フローリングにしたい!」とか言わないですよね。
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知らなかったら「これにしたい」なんて主張できません。。。
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ですよね(笑)だから今日はぜひ覚えて帰ってください。
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挽き板フローリング、突き板フローリングは、合板などの基材に、それぞれ、挽き板と突き板を貼り合わせた製品です。この貼り合わせる理由は、フローリングメーカーが、挽き板や突き板といった表面化粧材と、合板などの基材を複合させる部分で工夫を凝らすことで、建材として安定した品質を持たせ、防音や床暖房対応といった機能性の高い天然木化粧フローリングというものができあがっているからです。
無垢が最上級の品質!?これも間違い
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無垢フローリングも挽き板フローリングも突き板フローリングも、直に触れる表面は天然木だというのは理解しました。でも、やっぱり品質は無垢が最高峰なんですよね?
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そこなんです!わたしも誤解していたのは、品質は無垢フローリング、挽き板や突き板といった天然木化粧フローリング、シートフローリングという順番だと思っていました。じつは無垢フローリングというのはピンキリなんです。極端にいえば古民家を買ってリノベするときに裏山から木を切って床として貼ったらそれも無垢フローリングですが、そんなことしたら1年も経たないうちに反ったり割れたりして住めなくなります。
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つまり、挽き板フローリングなどの床材は無垢フローリングより品質が安定しているってことですか。
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そう。それが研究開発の成果です。だから、「予算はできるだけおさえたいです。でも床は無垢にしたいです」これは絶対やっちゃだめです。
無垢を使うならお金をかけないとだめです。 高品質な無垢フローリングは長い年月をかけてしっかり乾燥させることで施工後の伸縮による狂いを極力抑え、また見た目も美しい木目を揃えています。しかし、それでも同じ条件で無垢フローリングと挽き板フローリングを比較すると、伸縮のしやすさは10倍くらいの差が出たりします。
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無農薬野菜にたとえるとイメージしやすくなりますよ。
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無農薬、自然のものというと質も良く、体に優しい感じがしますね。
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でも、野生に近い自然のままに育った野菜はかたちも味も栄養もばらつきます。もちろん虫もつきますし、農薬を使わないとものすごく手間のかかった高価な野菜になります。一方で近頃は工場で作るプラント野菜もでてきています。品種改良され室内で温度も水も管理されているので虫もつかず品質は安定しています。私はこの中間にこそ最も望ましい姿があると思うんですね。必要最低限の農薬や、許容内での品種改良しかしていないので安定して供給できるものです。野菜を買う側も安心があります。
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それは床も同じだと。
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品質が安定した状態で、床暖房が使えるとか、経年劣化、機能性、汚れの強さ、施工の難しさ、メンテナンスの大変さ。こういったことを考慮にいれて改善し、自然の木に近いかたちで開発されているのが挽き板や突き板の天然木フローリングです。
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はい。いろいろ誤解が解けたところでますます知りたくなりました!
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わたしがリノベするときに無垢にこだわらなかったのは正しい判断だったと思います。
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正解!その通りですね!めんどくさがり屋さんなら大正解です。
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またまた、フローリング総研の所長さん!!
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もう少し詳しく説明しておきますね。無垢フローリングを採用するにはいろいろな条件が必要なんです。また無垢の不具合でよくあるのが割れです。あとはスキ、反りですね。特に床暖にしたときに含水率の変化で発生しやすいです。メンテナンスをさぼっていると赤ワインなどをこぼしたときのシミなんかも出来やすいです。
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無垢の床というのは半年に1回オイルを塗る作業が必要なんですよね?
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その通り。ウレタン塗装仕上げの無垢フローリングもありますが、一般的に無垢フローリングに多いオイル塗装仕上げはメンテナンスも大変です。それに、これは好みですけど、意匠もピンキリ。よく言うのはいろんな条件が揃わないと納得のいく仕上がりにならないということです。
施工はマニュアルを遵守できて技術があり、意匠のセンスも良い、3つそろわないとできないです。売る側にも知識とそれを正しく伝える能力が要ります。
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すごく大事なことですよね。住まう側も植物やペットの世話が出来ないひとが無垢を選ぶのはもったいないですよね。きちんとコストもかけて自然にリスペクトをもってやるべき。
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貼る工賃もかなり違いますよね。無垢フローリングは1枚1枚並べます。挽き板フローリング、突き板フローリングは規格がそろっているので施工効率がよい。比較すると3倍。3倍の値段と高い技術の職人さんを雇うことになるんです。
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ところでね。私疑問だったのです。高級マンションの新築でなぜシートフローリングなんですか?
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今のシートフローリングは、印刷技術が向上しているので、ぱっと見、天然木かと思える仕上がりになっています。また、インテリアデザイナーの要望に応じて天然木では難しい貴重な木目などもつくれます。何百戸というマンションに天然木フローリングを入れたときには、予想しないばらつきがあるので、この木目が人の顔にみえるとか、好みで気に入らないというのがでて、それを言われてしまうとデベロッパーは対処に困っていしまうので、ばらつきのないシートフローリングにしてきた経緯があります。
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そうだったんですね。
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もうひとついいですか?日本では挽き板フローリングが少ないのはどうしてなんですか?
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日本は靴脱ぎの文化で、表面材の厚みが薄くても問題がなかったので突き板フローリングがスタンダードになりました。海外は土足の文化ですから、表面材の厚みが薄いと摩擦で穴が開いてしまいますし、DIYの文化も根付いていて劣化してくると床を自分で削る方も多いですね。だから厚みが必要であるということです。
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なるほどー!
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いえいえ、ちきりんさんが野菜のたとえで上手く説明してくださったように、完全に自然なものと完全に人工なものの間で、可能な限り自然に近い状態で様々な条件に対応できるのが挽き板フローリングです!ぜひ、一度、実際に触れてみてください。
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ぜひ!