[特集] 木と建材からみたミラノサローネ10年 | フローリング総合研究所
2019.03.03

[特集] 木と建材からみたミラノサローネ10年

ミラノサローネを視察する理由

毎年4月にイタリアのミラノで開催されるミラノサローネ国際家具見本市(Salone del Mobile.Milano)は、それに伴って市内で展開されるフォーリサローネ(企業がショールームや特設会場で行う新作発表やインスタレーションなどのイベント)とあわせて「ミラノデザインウィーク」と呼ばれ、世界最大のデザインの祭典として注目を集めています。ミラノデザインウィークには、日本からもインテリアや建築に携わるプロフェッショナルの方々がたくさん視察に訪れており、その数は年々増えています。

世界のトップブランドや先鋭的なデザイナーが、その時々の社会背景、メガトレンドを踏まえて出してくる提案に直に触れることで、時代の趨勢、これからの時代に求められるものを感じとること。そこにミラノサローネを視察する意味があると思っています。

今回は、フローリング総合研究所の視点から見たミラノサローネの過去10年を振り返ってみたいと思います。

2008「直線的・平面的なモノトーンミニマル」

ブラック&ホワイトのモノトーンミニマルがトレンド。景気が悪いときはモノトーンが流行ると言われますが、リーマンショックに繋がるサブプライムローン問題が前年に発生したことが影響しているのかもしれません。木質系はウォルナットとオークが2大樹種。オークはクリアかブラック着色が多い印象。木質系は比較的マットな仕上げが多いが、チーク、黒檀、ゼブラウッドなど縞系の樹種はグロス仕上げでクラシックな雰囲気に。壁掛けタイプの薄型テレビの普及とともに壁面との一体感を持たせた可動式の壁面収納家具が多く見られた。

2009「ホワイトな空間と経年による味わい」

景気悪化の影響を受けて全体的に地味で、どちらかと言えば暮らす人の目線にたったライフスタイル提案型の展示が多かった。昨年のモノトーンミニマルから少しデコラティブ寄りに。新しい要素として経年変化による味わいと温かみを感じさせる演出がプラスされた。時間を価値として訴求するというのがこの年のトレンドのひとつと言える。全体のカラーとしてはホワイトがベースカラーとして多く見られた。木質化粧材はブラックウォルナットやイタリアンウォルナットのクリア塗装、オークはオープンポア仕上げのクリア、もしくはグレー、スモークブラウン系の着色が多く見られた。

2010「クリアオークとラウンドフォルムでナチュラル感を演出」

クリア仕上げのオークやアッシュなど淡い色目の樹種を使ったり、ラウンドフォルムなどで優しいナチュラルなイメージの演出が多く見られた。ブラック&ホワイトのミニマルな空間に低彩度なオレンジ、オリーブ、ブルーをアクセントに取り入れるコーディネートが多く、樹種は2大樹種のオーク、ウォルナットのほか、タガヤサンなどの希少材も見られた。オークはクリアでナチュラルに仕上げるほかブラウン着色も多い。ウォルナットは白太を生かしたものが見られ始めた。

2011「柔らかさ・素材感・タイムレスな価値」

ミラノサローネ50年、イタリア建国150周年の記念すべき年。街の通りには国旗が掲げられ、イタリアの家具ブランドからは国旗をモチーフとした家具が展示された。グレーやブラウンを基調とした落ち着きのあるベースカラーに彩度の低いイエロー、ブルー、パープルをアクセントとして取り入れるスタイルがトレンド。木質はウォルナット、オークのトレンドが継続。塗装、着色、加工を工夫することによる、思わず触れたくなる素材感も特徴。古木のように使い込まれたようなビンテージ感や経年変化の味を施しタイムレスな価値を感じさせる仕上げもよく見られた。

2012「マット仕上げの進化とキャラクター活用」

ホワイト、グレー、グレージュといった彩度の低いベースカラーに、オレンジ、ターコイズブルー、ピンクなどビビッドなカラーをアクセントに用いるコーディネート。景気の回復傾向に合わせてビタミンカラーが少しずつ増えてきた印象。樹種はウォルナット、オークがメインは変わらず、その他の樹種はエルム、パイン、メイプルが目についた。また、アウトドア家具においては耐水性の高いチーク、イロコが多く使われていた。仕上げは素材に近いマットな仕上げと鏡面に近い仕上げに二極化。また節などのキャラクターを補修しデザインの一部として活用、ラフソーンなどの加工も拡大・ラスティックな仕上げが増えてきた。

2013「ワイルドウッド・ラスティックトレンドの拡大」

グレー、グレージュなどのベースカラーに彩度の低いイエローやブルーなどをアクセントに。また、アクセントカラーはビビッドな色合いからパステル系パウダー系まで幅広く見られた。定番のウォルナット、オークの2大樹種ではオークの存在感が増した。また、エボニー、ローズウッド、パリサンダーといった希少材が増加傾向。節や割れ、道管の凹凸の激しいものをワイルドウッドと呼んで意匠に活かすラスティックが本格的に増加した。ワイルドウッドは家具だけでなく床に使用するブースも多く、洗練された家具にわざと床材でラフな印象に崩す手法が見受けられた。

2014「スモークユーカリの台頭」

引き続きダークブラウン、グレーなど低彩度なベースカラーで、樹種もウォルナット、オークがメイン。オークはモカ、ブラウン系の着色が多いが、この頃からユーカリとともに、熱処理で濃色に仕上げるスモーク仕上げが多く見られるようになる。前年から見られ始めたユーカリは価格の高騰するウォルナットの代替樹種として今後拡大していく。また、ラスティックな木目は減少傾向に移り、徐々にスタンダードできれいな木目使いにシフトし始めた。

2015「ラグジュアリー感とクラシカルなテイスト」

シックモダン&エレガントをキーワードに、グレー、ベージュを基調としたシックなインテリアが目立つ。ベルベッド素材やチェック、幾何パターンを用いラグジュアリー感とクラシカルなテイストを加えるコーディネートが多く見られた。ウォルナット、オークの2大樹種に変わりはないが、この年はウォルナットの存在感が強い。またオークでは特にグレー着色が多い印象。スモーク仕上げのユーカリの柾目使いも昨年に引き続き多く見られた。

2016「木目をパターンとして使う・きれいなデザイン」

グレー、ブラウン、ベージュなどアースカラーが継続。オークとウォルナットの2大樹種は変わらないが、ウォルナットの比率が昨年以上に高まった印象。スモークユーカリは定番化した。節などのキャラクターを多用した激しいラスティックは少なくなり、きれいな木目使いが主流でブックマッチやスリップマッチといった伝統的なパターンをリズミカルに並べる意匠表現が多くのブランドで見られた。一方で、キャラクターを適度に活用したほどほどラスティックは1スタイルとして定着した。フォーリサローネでは、木の経年変化で愛着を表現したトヨタ自動車のコンセプトカー「SETUNA」が話題になった。

2017「赤系樹種の台頭・杢と照りによる躍動感」

アースカラーをベースに強めのカラーを加えたエスニックカラー。グレー、ブラウン、ベーシュに組み合わせられるアクセントカラーが昨年よりも濃く大きな面積で使われていた。オーク、ウォルナットの2大樹種は変わらないが、赤やオレンジ、カッパーといったカラートレンドに伴い、マホガニー、ローズウッド、パリサンダーなど赤系樹種が拡大。また、それらの樹種に特徴的な杢や照りを効果的に使い素材の躍動感を演出していたのも特徴的であった。すべてのものがインターネットに繋がるIoTが進むなかで、空間に癒し効果をもたらす天然木への注目度はますます高まっていく印象。

10年を振り返って ― 変わらない「本物」の価値 ―

この10年のトレンドを振り返ってみると、スタイルはほぼシンプルモダンの範疇にあるもののカラーは大きくモノトーンからグレー、ブラウン、ベージュといったアースカラーへ変化してきています。

木質に関しては、ウォルナットとオークの2大樹種の人気が継続しています。2012年ころから大きな節や白太などのキャラクターを活かしたラスティックな木目が使われはじめ、近年では当たり前に見られるようになりました。ラスティックはひとつのスタイルとして定着しましたが、ここ数年は、どちらかというときれいな木目使いが多く見られるようになってきました。大きな節などを使った荒々しい表情は減少傾向ですが、きらきらと光沢を放つ照りや経年変化による風合いといった天然木ならでの特徴を取り入れるデザインは、年々増えてきているように感じます。

このように、10年間でのトレンドの変化が見て取れますが、逆に変わらないものは“本物”というコンセプトではないでしょうか。

テクノロジーの進化によって新素材や、3Dプリンターなどをはじめとする新加工技術が生まれる一方で、天然素材の価値は年々高まってきているように感じます。素材にヒエラルキーはありませんが、やはり、“本物”だからこそ、表現ができたり、伝わるものがあり、インテリアには、天然木の持つ“素材の力”がますます求められてきていることを実感しています。

ミラノサローネのフィエラ会場、フォーリを廻っていると、毎年、必ず感動を与えてくれる空間やプロダクトに出会えます。感動と共感をもって受け止めてもらえるものとはどのようなものでしょうか。それは、シンプルな「美しさ」「気持ちよさ」「心地よさ」を持つものであったり、作り手側の「メッセージ」や「思い」を感じ取れるものであったり、自分の人生観や美意識に響く「物語性」を持ったものであったりします。

天然木は、もともと、表情の「美しさ」、触った時の「気持ちよさ」、香りも含めた「心地よさ」、樹種やその木固有の「物語性」を持っています。それらの要素を引き出し、さらに、そこにどのような「メッセージ」、どれだけの「思い」が込められるかが、メーカーやデザイナーのテーマですが、新しい商品や提案は、時代の潮流を捉えたものでなければ、ユーザーの心を掴むことはできません。

いま何が求められているのか、人の感性に訴え、人の心に豊かさを与えられるものを生み出すためのヒントやアイディア、様々な気付きを与えてくれる、世界最大のデザインイベント「ミラノサローネ」に、今後も注目していきたいと思います。

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