空間を包む壁
「壁」は、「床」とともに、建築の基本的な要素であり、最も大きな面積を占める部分です。壁に何をどのようにに設えるかによって空間の雰囲気は大きく左右されます。今回の特集では、ミラノサローネ2016トレンド報告にからめて、空間における「壁」について考察していきたいと思います。
木の経年変化で表現する愛着 TOYOTA自動車「SETUNA」
表紙の写真は、今年のミラノサローネでトヨタ自動車が発表したコンセプトカー「SETUNA」です。クルマを、「愛」が付く工業製品として愛着を持って労り、手をかけて受け継いでいくことで、家族だけの新たな価値のある財(=時間財)になっていくとの考えを具現化したとのこと。住友林業と共同開発した杉の外板(ボディ)をはじめ、樺・欅・栓といった国産材を適材適所で採用したこだわりの作り込みで、今回のサローネで最もインパクトのあった展示の一つでした。
[インテリアトレンド] グレー・ブラウン系のアースカラーがベース
今年のインテリアカラーを一言で表現するとアースカラーです。「FLEXFORAM」「Porada」「Poltrona Frau」「Poliform」などトレンドを牽引する代表的なブランドが一様に、アースカラー(砂や石といった大地や木の幹の色)、すなわちグレー、ブラウン、ベージュ系をベースに、赤や青などのアクセントで加えるコーディネートを取り入れていました。このアースカラーのトレンドは、実はファッションで先行しているもので、ストレスフルな社会で、「癒やし」となる自然な色合いを求める現代人の感情から生まれたとも言われています。
また、差し色として、ゴールドやカッパー、ブラスといったメタリックな小物を取り入れることで、ゴージャスでラグジュアリーな要素を加える演出が多くのブースで見られ、こちらも数年前からのトレンドとして継続しています。
[木質トレンド] アースカラーと相性のいいウォルナット
オークとウォルナットで全体の約70%を閉める二大樹種トレンドが今年も継続しています。去年はオークの比率が少し下がり、ウォルナットの存在感が増しましたが、今年ははまたさらにウォルナットが多くなった印象です。その背景としては、カラートレンドであるアースカラーとの相性が良いことが挙げられます。その流れから、オークに関しても、モカやブラウンなど濃色に仕上げたものが多く見られました。また、熱処理(スモーク)で濃色に着色されたユーカリも去年に引き続き、「Molteni&C」、「Casa Milano」をはじめ多くのメーカーで確認できました。
[木質トレンド] 木目をパターンとして使う
昨年からラスティック過多の傾向が弱まり、キレイ目な木目使いに変わってきています。本物の素材感の表現としてブームとなったラスティックは、もはやトレンドを通り越して定番スタイルとして確立されてきました。
そして、今年顕著に見られたのが、木目をデザインパターン(模様)として使う意匠です。突き板で、ブックマッチやスリップマッチなどの伝統的な貼り方をしたり、あえて、同じような木目をリズミカルに並べて魅せる意匠表現が多くのブランドでみられました。木質仕上げに置ける大きなトレンドの流れとしては、ランダムなラスティックデザインから厳選された木目をきれいに配置するデザインに移り変わってきているようです。
【突き板の貼り方】
ミラノサローネを彩る様々な壁
今回のミラノサローネ視察では、「壁」に注目して見てきました。 面積が大きいだけに空間の雰囲気を大きく左右する壁面は、床と同様インテリアのベースとなる部分です。一方でひとつの空間で1面で構成される床とは違い、壁は3面、4面と空間を構成する面が多いため、複数の素材やデザインを取り入れやすい部分でもあります。住宅であれば、シンプルでプレーンなものをベースとして部分的に装飾的なものを取り入れてアクセントにしたり、変化を付けたりするケースがよく見られます。
ミラノでは、様々なブースで様々な素材とデザインの壁を見ることができました。木質壁では、木目でデザインしたフラットなものから、凹凸加工や異なる樹種の端材を組み合わせた立体感のあるもの、タイルや樹脂など異素材のものも含めて、今後の当社の商品企画においても参考になるデザインがたくさんありました。例えば、「Boffi」や「PORCELANOSA(次ページ写真参照)」で見たタイルの凹凸感を木で再現して見ても面白いかもしれません。また棚板と組み合わせることで、デザイン的な拡がりが生まれるとともに、収納機能が付与できるのも壁の面白いところです。
空間に一体感をもたらす床から立ち上がる壁
床と壁との取り合いについても着目してみました。あらめて多く見られたのが、床と同じ素材・デザインでそのまま壁を立ち上げるパターンです。
特にカウンターの面材を床から立ち上げていくケースが多く確認できました。非常にシンプルでありながらも、床と壁の連続性によって一体感のある空間を作り上げることができます。実は、当社の床材製品でも壁や天井に採用されるケースは案外少なくありません。
壁材を床に使用するのは性能面では支障がでる可能性が高いのですが、床材を壁に使用するのは比較的簡単にできます。
壁には壁材という既成観念はずして、床材を素材として壁に使うという提案ができることにあらためて気づかされました。