COLUMN #3
動物救急センター E R 文京センター長 石田哲太郎
ペットと一緒に生活する事は、より豊かで健康的な人生を送る上で様々なメリットがあります。
声かけのコミュニケーションやお世話を通じて、うつ病や痴呆症、フレイル( ※ )の予防といった、肉体的・精神的なサポートになったり、一緒に暮らすこと自体が生きがいとなったりします。
室内飼育が一般的になり、人とペットが同じ空間で生活をするようになりましたが、身体や食性には違いがあります。
以下救急病院でよく遭遇する家庭内の事故と対処法について紹介させていただきます。あらかじめ知っておくことで回避できる病気や事故もありますので、ぜひお役立ていただければと思います。
本来食べて良いもの以外のものを誤って食べてしまう事を誤食と言います。動物病院へ来院される誤食例として多いケースは
●ねぎやチョコレート、レーズンなどの食べ物(これらは重篤な中毒を起こす可能性があります)
● 人間の薬、釣り針やまち針、布、紐、ウレタンマットや絨毯の切れ端、靴下、犬用のおもちゃなど様々です。
〈処置方法〉
病院に運ばれてきた場合、食べた直後であれば吐かせる処置を行います。なお、吸収してしまうと中毒を起こす可能性が高いと判断した場合は麻酔をした上で胃洗浄を行います。吐けなかった場合あるいは、針のように尖っていて吐かせると刺さってしまうリスクの高いものは、全身麻酔下で内視鏡により摘出します。内視鏡でも取れないほど大きいものや多量なものの場合あるいは、内視鏡の届かない範囲で消化管閉塞を起こしている場合は手術となります。
このように、簡単に飲み込んでしまうような物でも大手術が必要な場合があり、ワンちゃんにも飼い主さんにも大きな負担となってしまいます。
〈予防方法〉
予防する方法として、落ちているものなどを食べないようにトレーニングすることも大切ですが、まずはワンちゃんの動き回るスペースには食べてしまうと困るものは置かないことを徹底することが重要です。
不用意に落としてしまっている場合もありますので、床は常に見えやすく、清潔に保つことをおすすめします。収納できるものはしっかりとしまって、開けて出せないように工夫しましょう。
熱中症とは暑い環境で起こる体調不良の総称です。真夏日に水分や休憩を取らずに遊んでいると脱水症状や高体温になるということは容易に想像できると思います。
屋外では地表面に近づくほど地表からの熱の体感温度が上がります。散歩している時に、人が感じる以上にワンちゃんは暑いと感じている可能性があります。熱の籠りやすいアスファルトやマンホールなどは注意が必要です。
また、熱中症は、屋外で起こっている印象が強いかもしれませんが、実は、屋外での熱中症は全体の3割ほどで、7割近くは室内でおこっています。
〈予防方法〉
急激に温度が上がる状態になると、炎天下と同じく熱中症リスクが高まります。エアコンのついていない部屋や、窓を閉めエンジンを切った車内などは特に注意が必要です。
また、エアコンをつけていても、部屋に日光が差し込むような場合は、室温が急上昇する可能性があります。部屋を離れてしまうと、その後の内部の気温変化がわかりません。悪い条件が重なると、残されたペットは数分や数十分で一気に熱中症になってしまうかもしれません。普段から気温計や湿度計で環境変化を把握しておくことは、室内熱中症の予防へと繋がります。
ワンちゃんは人と違い、皮膚で汗をかくことができません。体温が上がった場合は、わずかに足の裏で汗をかけるものの、パンティングと呼ばれる頻回の呼吸によって主に熱を逃がすことになります。パンティングの熱交換効率を超えた急激な温度変化があると、熱がこもり熱中症のリスクが高まってしまいます。
〈処置方法〉
はぁはぁしている、水をよく飲んでいる、冷たい地面やフローリングに伏せている、風に当たっているなど、これらの症状を見かけた場合は、暑いのかなと考えて対策をして下さい。自由に動ける場所にいる場合は、涼しい場所を作る、水を自由に飲めるようにすることが重要です。
また、元気のない状態で発見した場合は、自分の意思で調節することが困難になっている可能性がありますので、人の手で、涼しいところへ移動させる、水を飲ませる、首や脇など大きな血管のある場所を冷やしてあげるなどの応急処置をしながら、動物病院へ相談してください。
落下で多いシチュエーションは抱きかかえた高さからの落下、ソファーやベッドなど登ったところからの落下転倒、元気よく走り回っての転倒、階段の上からの落下です。
ペットの抱っこに慣れていない飼育初期には、不用意に抱きかかえて暴れて落下してしまい骨折するケースが時々みられます。床に近いところで抱きかかえる練習をするなど段階的に慣れていけると良いと思います。ソファーやベッドから落ちるケースでは、爪が伸びていて布地に引っかかり落ちてしまったり、足裏の滑り止めが効かずに着地に失敗し転倒したりすることで、靭帯や関節を痛めてしまうことがあります。
また、普段は落下していなかった場所から落下する場合は、滑って落ちることもありますが、てんかん発作など一次的に意識を失い落下しているケースもあります。
いずれのケースも、ペットの行動を良く観察し、部屋の内装やゲートの位置を工夫することなどで、ぜひ予防を心がけて下さい。
携帯電話の充電器や電化製品のケーブルなどがむき出しの状態になっていると、おもちゃと勘違いしたワンちゃん猫ちゃんは、舐めたりかじったりしてしまうことがあります。舐める程度では体調を崩すことは稀ですが、かじったり、水没と重なったりした場合は、感電する可能性があります。感電の程度によっては、口腔内の組織障害や非心原性肺水腫など命に関わる症状を起こすことがありますので注意が必要です。
またコンセントにおしっこをかけたり爪を入れたりした場合は、感電する可能性もあります。
〈予防方法〉
コンセントやケーブル類はむき出しにせず、ケーブルタップB O X に配線を収納したり、床用モールやケーブルカバーを設置したりと直接触れられないような対策をして下さい。
寒い季節は、床に近い方が温度が下がりますので、エアコン、ヒーター、ストーブ、ホットカーペット、床暖房、こたつなどで暖かい場所を作ってあげる必要があります。
動物病院に来院するケースとしては
●ヒーターの前で寝てしまい、乾燥によって粘膜が損傷を受け上部気道炎を起こした
●ホットカーペットや床暖房で低温やけどを起こした
●石油ストーブの上に落下してやけどをした
などがあります。
床を暖める場合は、状況に応じて間に敷布などを入れ直接的に熱が伝わらないようにします。
石油ストーブなどは、囲いを作り、直接に触れられないようにしますが、ペットの力が強く囲いを動かしたり壊したりしてしまう場合がありますし、高いところが好きな猫ちゃんでは、近くに飛び乗れる場所があると落ちて火傷することも想定されますので、設置場所には十分注意してください。
以上の5つが救急病院でよく遭遇する家庭内で起こりうる事故や疾患です。
ペットとの生活では、まさかそんな事はないだろうと想像を越えてくる出来事が時々起こりますが、それが楽しみであったり、危険であったりします。知ることで行動することで防げる病気や怪我がありますので、より安全で豊かな生活が送れるよう、日頃から気を配って生活しましょう。